駐在員の医療費控除の勘所と落とし穴
さて、現在2017年の確定申告を作成していますが、私自身が今回新しく申告するアイテムとして医療費控除があります。
私自身は日本の税理士ですが、普段は法人相手の仕事をしており、個人の申告は仕事ではもう7-8年前にやったきり。後は自分の申告しかしていません。
そこで、私自身の記憶の活性化の意味も込めて、今日は医療費控除についてまとめたいと思います。
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なお、この記事は税務の専門家としての立場で書いたものではありませんので、あくまで申告は自己責任でお願いします。
医療費控除の概要
医療費控除はいわゆる「物的控除」と言われるもののひとつで、要は多額の現金を支出した納税者について、一定額を所得控除として所得から控除することで、税金負担を緩和しようというものになります。
医療費控除は10万円と総所得金額の5%のいずれか小さい方を超える金額、つまり基本的に10万円超の医療費の支出について、所得控除を取れる仕組みです。
私は2017年に米国への移住前に歯をひととおり直してもらったことや、家族が入院したことなどが相まって、医療費の支出が嵩んだため、自分自身の申告では初めて控除の計算を行いました。
(医療費控除の概要はこちらから。国税庁HPです。)
No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|所得税|国税庁
平成 29 年度税制改正の変更点
添付書類が緩和された
まず、平成 29 年度の税制改正に伴い、医療費控除の適用を受ける場合に必要な提出書類の簡略化が図られました。
具体的には、これまで(平成28年分確定申告まで)医療費控除の適用を受けるためには、「医療費の領収書」 または「薬品購入費の領収書」の添付または提示が必要でしたが、これに替えて明細書を添付する制度に切り替わりました。
医療費の明細書は膨大で、このためだけに別途封筒を用意して申告したこともあるくらいで、これが明細書の添付でよくなったというのは大きな改善だと思います。
なお、申告書には明細書の添付で足りますが、医療費の領収書は引き続き確定申告期限等から5年間保存す る必要がありますので注意してくださいね。
セルフメディケーション控除という新しい制度が設けられた
セルフメディケーション控除では、控除の対象をOTC医薬品の購入費用としています。
OTC医薬品のOTCは「Over The Counter」の略で、法律的には一般用医薬品のことを指しています。
一般的には「大衆薬」や「市販薬」などの呼び方がされており、ドラッグストアなどで購入できる医薬品で、約1,500品目が該当するとされています。
控除の制限として、OTC医薬品を1万2千円超購入している場合のその超過分が控除の対象となります。最大で8万8千円まで控除が可能です。
(算式)
控除額 = OTC医薬品購入額 - 12,000円(下限)
要は、10万円の支出で、8.8万円の控除が限度になると覚えておくとわかりやすいですね。
この制度により、日ごろから健康増進に努めている人も医療費控除を使えるようになります。
病気やケガをあまりしていない方であっても所得控除を取れる道が開かれたという点で、新しい制度だと思います。
なお、セルフメディケーション控除を受けるためには申告する本人が、確定申告の対象となる年に以下のうち、いずれか一つを受けていることが条件となります。
(1)インフルエンザなどの予防接種、
(2)定期健康診断、
(3)特定健康診査(メタボ健診)、
(4)人間ドッグやがん検診(市町村・健保組合等が実施)
また、セルフメディケーション控除は医療費控除とは併用できませんので、気を付けてください。
No.1131 セルフメディケーション税制と従来の医療費控除との選択適用|所得税|国税庁
海外移住する人への注意点
医療費控除を受ける方。特に海外移住した方、あるいはこれからする方へ。
医療費控除は年末調整の対象にはならないため、自分で確定申告をすることになります。
渡航前は持病や、歯の治療などを済ませていくことが多いでしょうから医療費控除を計算する機会も出てくると思います。
そこで以下に留意点を纏めたいと思います。
添付書類の緩和は平成30年1月1日以降提出分から
もう今更ですが、添付書類の緩和は平成30年1月1日以降提出分から適用になります。
ですので、今後提出される方は明細書の添付のみで、領収書の添付が省略できることになります。
なお、還付申告の期限は5年間ですので、例えば今後過去の確定申告書を医療費控除と共に提出される方もいらっしゃるかもしれません。
細かい内容ですが、今回の改正は平成29年分以降の所得税について医療費控除を受ける場合の改正になります。
したがって、過去の申告分については以前のとおり、領収書の添付義務がある点に注意してください。
医療費控除は居住者期間の支出分限定
医療費控除は居住者限定の所得控除です。
例えば家族が後から渡航してくる方は自分が出国してからも医療費が発生するケースが多いと思います(私がこのケースでした)が、非居住者期間(つまり出国後)に発生した医療費は医療費控除の対象にはなりませんので注意が必要です。
定期検診や予防接種は医療費控除の対象にならない
ご存知の方も多いと思いますが、医療費控除はあくまで「ケガや病気」を対象にしたもの。
渡航前には定期検診や予防接種を受けられる方も多いと思いますが、これらは医療費控除の対象になりませんので注意してください。
下記はAll aboutのサイトですが、「医療費控除」「対象」とGoogle入力したところ40万件程度ヒットしました。
専門家に聞かずともかなり情報が転がっているはずですので、いくつかサイトを見た上で集計することをお勧めします。
国税庁から医療費控除の手続きに関するQAが公表された
医療費控除の手続きについて、1月5日付で国税庁から以下のQ&Aが公表されています。
ご自分で申告されるという方は、こちらも合わせて確認してみてください。
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/iryohikozyoQA.pdf
アメリカの医療費控除制度と比べてみて
最後に、駐在員向けに、アメリカの医療費控除制度についても簡単にまとめてみます。
概要
アメリカに移住された方は、ご自身で連邦税申告書(Form1040)を作成される機会もあるかもしれません。
アメリカの所得控除はAbove the line deductionとBelow the line deductionの2つに分かれ、更にBelow the line deductionはStandard Deduction(概算控除)と、Itemized Deduction(項目別控除)に分かれます。
このItemized Deductionの項目の一つとして、医療費控除が設けられています。
アメリカの医療費控除の対象は日本よりもやや広い
アメリカの医療費控除の対象となるものは以下の経費が含まれます。
・医師による診察料および治療費
・入院代、手術台
・レントゲン、血液等の検査料
・健康診断料、医療関係の交通費
・眼鏡、コンタクトレンズの購入費用
・義歯、ブリッジ、インプラント費用
・健康・医療保険料(ただし生命保険料は対象外)
・医療貯蓄口座への積立金
眼鏡、コンタクトレンズや、健康診断料、医療費貯蓄口座への積立金も含まれるので多少日本より対象が広いイメージですかね。
ただし、市販の風邪薬は含まれませんし、処方箋以外の薬品(セルフメディケーション税制)は対象とはなりません。
ご自身が制度の対象となるか
そもそもご自身が制度の対象となるかの判断が必要です。
まず、医療費控除は調整総所得(AGT)の10%(65歳以上は7.5%)の「足切り制限」があります。
日本の10万円と比べて多大で、単独の所得控除としても適用のハードルが高いという理解で間違えありません。
また、Standard deductionの金額として2016年は以下が設けられているため、Itemized Deduction合計でこれを超えるかどうかの比較検討が必要になります。
・夫婦個別申告の場合 $6,300
・夫婦合算申告(MFJ)の場合 $12,600
なお、米国税法上非居住者の場合や、Dual Statusに当てはまる場合、Standard Deductionが使えなくなるという制限規定もあります。
これらの判断は非常に専門的な内容を含みますので、特に入国年と出国年には専門家にコンタクトすることをお勧めします。
アメリカであれば日本語でもそれなりに情報が転がっているはずですので、「アメリカ」「医療費控除」などとキーワードを入れて検索してみるとよいと思います。
以下は記事を執筆する際参考にしたウェブサイトになります。
編集後記
今年初めて自身の医療費控除を取ることになりましたが、私は明細書添付の簡素化の税制改正が平成30年1月1日以降提出分と知っていたため、納税管理人を置いて出国してきました。
(もっとも、それがなくても納管はおいてきたと思いますが。)
昨年から国税はクレジットカード納付も可能になったので、e-Taxの申し込みさえ出国前に済ませてくれば、実質的に海外からでも申告・納税手続まで完了させることができそうですよね。
なお、出国される方の申告手続については、いくつか回を改めてエントリをしていますので合わせて確認されてみてください。
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